見えない支柱:ヤングケアラーの貢献と課題

ヤングケアラーとは…

家族の中で慢性疾患などを持つ親や兄弟姉妹の介護や支援を行う若者のことを指します。

彼らは家庭内で介護や世話をすることがあり、そのために通常の子供や若者の生活から時間やエネルギーを割かなければなりません。

ヤングケアラーは通常、8歳から18歳の間の子供や若者を指しますが、場合によっては18歳を超えた若者も含まれます。

2020年の統計によれば、英国におけるヤングケアラーの数は約70万人に上ると推定されていますが、これは他の国々でも同様の傾向が見られています。

日本では厚生労働省が文部科学省と連携しておこなった「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」では、これまでスポットの当たらなかったさまざまな実態や課題が浮き彫りになっています。

例えば、公立中学校・高校に通う生徒が家族の世話をしていると回答した人のうち、約1〜2割が平日の1日の7時間以上を世話に費やしているという結果がでています。

また、世話をし始めた年齢の多くが10歳前後と早い段階から家族を支えていることなどがわかっています。

ヤングケアラーがスポットをあたるようになった背景

ヤングケアラーは近年、急に増えたりしているわけではありません。

一昔前の時代にはこどもが一家の労働力として行動するのが当たり前とされている時代もありました。

ではなぜ話題性をもつようになったのか…

1つは、一人ひとりの人に対してや、子供の権利がより尊重されるようになったことです。(2023年の4月にこども基本法が施行された)

そしてもう1つの背景となっているのが、児童虐待問題です。

ヤングケアラーの問題は児童虐待と繋がっているケースが多いと言われています。

(例)兄弟がいて、ネグレクトなどの育児放棄によって下の子に食事が与えられない場合は上の子があげるといった形がつくられる。

また、核家族化や親の単身赴任など、家族構造の変化がヤングケアラーの増加に影響していたり、高齢者の増加に伴った慢性疾患などを持つ家族の介護需要の増加や、貧困や経済的困難な状況下では、家族が介護サービスを利用することが難しい場合があり、若者が家族の介護を行う必要性が増し、ヤングケアラーの数が増加していたりします。

ヤングケアラーであることによる影響

ヤングケアラーが担当する介護の内容はさまざまで、親や兄弟姉妹の身体的介助から精神的な支援、家事や買い物の手伝いまで多岐にわたります。

そして、厚生労働省から発表されたアンケート結果でもわかったように、ヤングケアラーは1日に行動する時間の多くをケアの時間に割いているため、自らの活動時間が少なくなっており、下記のような状況を生み出しています。

(1)学校生活での影響

・学校を欠席、遅刻・早退

・授業などに集中できない

・希望した進路実現が難しい

・部活の早期離れ

・行事の欠席

・友人と遊べない、周囲との会話が合わない…etc

(2)健康・感情面

・食欲の低下

・睡眠不足

・倦怠感

・情緒の乱れ、不安定 …etc

心身の疲労から健康面をはじめ、学校生活に関わることなど、多くのことに影響がでており、負の連鎖を起こしています。

ヤングケアラーに対する支援

①教育支援

・学校や教育機関が、ヤングケアラーのニーズを理解し、柔軟な学習環境等を提供する。

(授業の欠席や遅れの補償、学習支援やキャリアカウンセリングなど)

②精神的支援

・ 心理カウンセリングやメンタルヘルスサポートの提供により、感情を表現し、ストレスを軽減し、自己肯定感を高めることができるようにする。

③家族支援

・家族全体がサポートを受けられるよう、家族向けの介護教育プログラムや情報を提供する。( 家族の経済的負担を軽減するための支援策やリソースへのアクセスも重要 )

④社会的支援

・地域やコミュニティにおけるヤングケアラーのニーズを理解し、適切なサービスやプログラムを提供する。( レジャーやレクリエーションプログラム、キャリアサポート、就労機会の提供など )

・学校や地域団体、政府機関が協力し、ヤングケアラーの社会的統合と支援を促進。

⑤埼玉県の取り組み

埼玉県は2020年にケアラー支援条例をつくり、その中で日本ではじめてヤングケアラーに対する条例を出しました。

(例)

・自分と同じ立場の人と話ができるオンラインサロン

・ケアラー支援のWEB講座 など

⑥群馬県の取り組み

高崎市では2022年度からヤングケアラーがいる家庭に無償でヘルパーを派遣する事業が開始されました。

これらの支援策は、ヤングケアラーが健康で充実した生活を送り、自己実現を達成するための基盤を提供しています。

しかし、支援にあたって1番の課題はヤングケアラーであることの把握が難しいことと言われています。

それは、自身の家庭状況が当たり前と考えていて無自覚であったり、家庭内の問題はデリケートな面も備えているため第3者が入り込みにくかったり、支援につなぐ窓口までの導線が整っていなかったり…まだまだ多くの整備が必要となっています。

そのため、このような施策が増えることはもちろん、多くのヤングケアラーに普及すること、届けるまでの導線を整えることなどが大切になってきます。

おわりに

このような社会問題を解決するためには、まずは多くの人が問題意識をもち、理解を深めることが重要かもしれません。

最も先進的な取り組みをしていると言われるイギリスでは2014年にヤングケアラーの定義が明確化されています。そして、明確化によって各自治体では支援策をつくることを義務化されています。

日本ではどれくらいの認知があるのでしょうか…。

近年では見守りサービスなど解決の一助になるようなサービスも出てきています。

多くの人が実態や課題、サービスを知り、行動していく回数が増えること、それが鍵になるのかもしれません。

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